農事組合法人きすみの営農
兵庫県小野市
代表理事・組合長藤本 弘文さん
直播栽培は今年(平成29年)で2年目です。移植ばかりだと過密日程になってしまうので、少しでも前倒しで作業分散ができることを期待しました。今の直播は技術的に向上していて、昔のように発芽しないとか収量が落ちるといった欠点が解消されていると聞いていたので、ぜひ導入しようということになりました。
コーティング資材については、「コーティング作業が楽」と聞いたのでべんがらモリブデンを採用しました。
今年の収量は10俵/10a。直播にしたから落ちるということはないようですが、毎年これだけ安定してつくれるようになるには我々のレベルアップが必要です。
導入したからには作業負荷を軽減するメリットのある規模、全体の3割、5haくらいまではやりたいですね。来年の計画は2.6haです。前作で麦→そばの圃場が2枚増えます。この2年は条件の良い圃場でやっていましたが、これから面積を増やしていくとなると圃場を選べません。
とくに直播は水を入れるまでが重要です。しっかり均平がとれていないと発芽しなかったり生育が均一になりません。すき込みが不十分だと草が生えやすくなります。面積を増やすのであれば、改善を積み重ねていく必要があります。
稲作のシーズンだからといって、稲作にべったり人員を配置しているわけではありません。年間を通して仕事を確保するために何品目かの野菜をつくっているので、田植え作業に人が集中しないようにしたいです。移植ではオペレータ1人、苗と肥料運搬1人、圃場で苗・肥料補給2人、計4人必要ですが、直播はオペレータ1人、籾と肥料運搬1人、計2人でできます。働く人をバランス良く配置していくうえでも、直播栽培を効果的に経営に取り入れていければ良いと考えています。
有限会社ごんべい
福島県大沼郡会津美里町
代表取締役大竹 久一さん
省力化を目的に、直播は20年くらい前からやっています。実際、苗づくりの労力は少なくなりました。播いてからの2週間は水管理や除草剤散布の作業がありますが、ここをしっかりやっておけば、あとは移植と同じです。
直播をやる一番のメリットは作期の拡大です。直播+移植で1ヶ月と1週間くらいになります。収穫は、予備日を入れて1ヶ月と2週間くらい見ています。
種籾は発芽率は、温湯処理をするとグンとよくなることがわかりました。温湯処理した種籾と薬剤処理した種籾を両方播いた年は、温湯処理の方が発芽率、早さ、揃い、いずれも良かった。歴然の違いがありました。
直播のイネは倒れやすいと言われますが、倒れる原因は移植も直播も同じだと思います。直播は生育ステージが少し遅れるので、遅れるなりの管理をしてやれば大丈夫です。例えば肥料の選択。いろいろな種類がある一発肥料の中から、このあたりの気候に適したタイプのものを選択する。あとは水管理。生育の進み具合に応じてずらしていきます。
飛び地で直播をやると鳥の集中攻撃を受けます。この地区には直播研究会というのがあって直播をやる人が多い。うちが直播にしている13haの周辺もほとんど直播です。そうすると鳥が分散するから、被害があっても許容範囲で収まります。鳥にあげる分だけ余分に播いとけって感じですね。
集団でやるメリットは水管理の面でもあります。ここは田植えの水が入ってくるのが5月10日頃から。ところが5月10日以降に直播をすると生育が遅れてしまう。だから直播をやっているところには4月25日頃から水が流れてくる。直播をやる人がたくさんいるからそれが可能なんです。
直播は田んぼの中で発芽させるように管理するから、雑草イネまでよく芽が出てきます。直播を毎年続けると増えてきて、イネだから除草剤が効かない。だから4~5年くらいで移植とローテーションするのがいいのかもしれません。今後はそのあたりを検討しながらやっていきたいですね。
福光園
奈良県宇陀市
十五代目園主福井 周一さん
この数年で私のところにも農地が集約してきて、育苗ハウスを増設する必要があるのですが、これ以上場所がありません。また、家族経営なので労働力の限界も感じていました。そのような状況で直播には以前から興味があったのですが、このあたりは気温が低く発芽する前に雑草が出てきてしまう。周りで成功している人がいなかったので、採用に踏み切れませんでした。
ところがヰセキさんに相談してみると「できます!」と自信満々で言われ、自分もその気になってやってみることにしました。
発芽のポイントは播種のタイミングです。今年の播種は5月4日、発芽が5月下旬でした。播種から発芽まで一般的には2週間、早いところなら1週間と言われていますが、ここでは20日が目安になります。
発芽に日数がかかるからといって4月中に播種すると寒すぎて田んぼが凍ってしまう。それならばと遅らせて5月20日くらいに播種すると、発芽する前に梅雨入りしてしまってダメ。やはり5月初旬が適期です。
直播は標高の低い平地でやるのと、ここのように500mくらいのところでやるのとではぜんぜん違います。タイミングとか細かいことがわかっていないと失敗する。「ほっといたら出るやろ」という感覚では絶対に発芽しないと思います。
今年の収量は510kg。ほぼ目標に近い量が穫れました。食味や整粒歩合も概ね満足できるレベルです。
直播のできる条件の良い田んぼは直播にしていきたい。自分が先駆者になってアピールしていったら、この地域でも直播がもっと増えていくと思います。そう思ったから今年はあえて目立つ場所でやりました。
誰だって苗を運んだり持ち上げたりするのはしんどい。買えば高い。直播でうまくいくことが証明できれば、この地域の農業にも必ずプラスになると思っています。