井関農機株式会社

スマート農業

可変施肥田植機はこうして生まれた

エンジニア、営業、研究者、、、それぞれの熱い思いから、
この商品は生まれました。

可変施肥田植機の開発は、秋の倒伏に悩む生産者のひと声からはじまりました。
生産者・試験場・メーカーの三位一体の協力関係のもと、7年の歳月をかけて開発が行われ、世に送り出されました。
これまでにないまったく新しい田植機。
その開発の裏には、関わったメンバーの熱き奮闘がありました。

まずはアイディアを形に。
田んぼの中で5mごとにサンプルを採る地道な基礎試験の積み重ね。

  • 井関農機株式会社
    移植技術部 兼 先端技術部 … 施肥部、センサ部の開発を担当
    参事 加藤 哲(左)
  • 先端技術部…電装関係の開発を担当
    川上 修平(右)

可変施肥のアイディアを実用化するためにどのようなところに苦労しましたか?

何といっても土壌センサの開発、特に電極センサには苦労しました。窒素成分が多い圃場はイオン化合物が多くなるので、土中の電気抵抗を計測することで肥え具合がわかります。電極センサの完成には、電気抵抗値と土壌中のイオン化合物との相関関係を緻密に調べる必要がありました。

そのため試作機で田んぼの電気抵抗値を計測しながら、同時に5mごとに土を採取して、その成分を解析しました。サンプル数は3年間で1,000点以上にもなり、この作業が一番たいへんでした。

新しい機械の開発にあたって、難しいところはありましたか?

電気関係の部品は今まで使ったことのないようなものばかりで、供給先の検討に苦労しました。

この機械では、とくに施肥部に特徴がありますよね。

駆動機を小型化して、ホッパーと施肥機の間に納めなければなりません。約1.8m/秒の車速に追従し、モーターの回転と排出量に対して制御が間に合うようにするために、今まで使ったことのない「ボールネジ」という部品を使用しました。しかもこの箇所には肥料がかかるので、かなりの防錆処理が必要です。この部品も探すのに苦労しました。

そのような努力で土壌の状態に応じた施肥制御が可能になったのですね。

肥料にはさまざまな種類があって、それぞれ比重が異なります。比重が軽いものは多く、重いものは少なく撒かなければなりません。比重の異なる肥料でも正確な量を撒くために、正確な比重を測定できる独自の計算式をプログラミングしています。

土質が変わったときの制御はどうなっていますか?

あらゆる田んぼの肥沃度に対して「このように減肥しなさい」というのではなく、それぞれの田んぼの中での相対値で減肥率を決めています。田んぼに入って最初に「ティーチング」という行程があり、その田んぼの深さと肥沃度の平均値を出します。

その数値から、田んぼの深さや肥沃度のバラツキを基準にして減肥率を決めます。田んぼが変わり、土質が変わったらその都度平均値と偏差値が変わるだけです。

この機械はタブレットを使った施肥設定も特徴ですよね?

タブレットの画面をどういった構成にするか検討する中で、どなたにでもストレスなくお使いいただけるように「見やすく」「操作性を簡単に」というところに配慮しました。

いろんな検討を重ねて、今までにない機能を搭載した機械が生まれたんですね。技術部門としては、 今後どのようなテーマをもって開発に取り組んでいこうと考えていますか?

トラクタ・田植機・乗用管理機・コンバイン・乾燥機から得られた情報をPDCAサイクルで回したいというのが最終的な目標です。例えばコンバイン・乾燥機で測定した収穫量と施肥量の関連から次の年の施肥量に反映させるというものです。

GPSで得られる地図情報から、田んぼの中でどこが深いとかいう情報を得ることができます。その情報を基に、代かきの精度を高めたり、田植作業時に深くて危険な場所で警告を発したりできるようなことを考えています。

農家さんの「可変施肥をはやく世にだしてれよ」の声が研究の力となりました。

  • 鳥取大学
    農学部 生物資源環境学科…可変施肥のシステム構築を担当
    准教授 森本 英嗣

この商品を開発した動機

以前勤めていた研究機関での勉強会にて、次世代の担い手になる若手の農家さんとの出会いがきっかけでした。父の知見を田植機に埋め込んで、納得させることができる稲つくりをしたいという希望を受けて開発に着手いたしました。

開発してて一番つらかったこと

全国20か所以上の農家さんと共に実証試験を実施し、現場の意見を聞きながら課題が生まれたら常に改善していくことはなかなかの時間と尽力がかかりました。

実際に取り組んでいて一番強く感じたこと

技術の裏付けとなるのは農家さんが使ってよかったなと思ってくれる感覚、そして早く作ってくれよという後押しが我々の研究を支えてくれていたと思います。

今後目指すビジョン

いわゆる稲作の農作業体系を普通に行っていく中でデータを常に蓄積してくビジョンを持っています。そのビジョンを具現化するためのシステム開発に取り組んでいきたいと思います。

全国155箇所でモニター試験。
可変施肥で収量をとりながら倒さないギリギリの施肥設定をねらってほしいです。

  • 井関農機株式会社
    夢ある農業ソリューション推進部…生産現場での実証試験を担当
    雑賀 正人

実証試験とはどのようなものだったんですか?

この機械の完成にはハード(機械)だけではなく、実証によるイネの生育収量の検証といったソフト(栽培)に関する視点も必要でした。そのため、生産者の方の田んぼをお借りして、イネの生育ムラや倒伏の改善状況を記録することで可変施肥による効果の検証をおこないました。

また、専門家による客観的評価も必要でしたので、各県の普及所、試験場の先生方に協力を得ながら、全国規模で試験を行いました。

どのような点に苦労しましたか?

全国の条件での生育収量の検証も大変でしたが、それ以上にハード(機械)の改良要望の拾い上げ。これが一番大変でした。

この機械はタブレット端末と通信して施肥設定するようになっており、しかも施肥量が走りながら可変するという超新しいジャンルでの挑戦だったため、想定外のトラブルもたくさん起こりました。「そこが壊れるとは思わなかった」とか「そういう使い方をするとは思わなかった」これらの連続です。

試練のたびに機械は進化してきたんですね

そうですね。全国実証で数多く生産者の方に機械に触れて頂けたことで、この機械も試作機から量産機に脱皮することができたんだと思います。量産機の姿を見たときは、「こんなに立派になって…(泣)」といった感慨深い気持ちでした。

生産者の方の反応はどうでしたか?

まず驚きですね。田植えしている最中に施肥量の目盛りが動くのをみた時、またそれがいつも倒れている所で減肥制御するのをみた時…。皆様の顔が驚きとワクワクでいっぱいになります。

頭の中で記憶している田んぼのクセ。それがタブレット上で土壌深度MAPとして視覚的に見えるのです。田植えが楽しくなりますね。この一連の反応に立ち会うのが私にとってこの上なく嬉しい瞬間でした。

生産者の方にこの機械をどのように活用してほしいですか?

 この機械は倒伏軽減といった部分がクローズアップされがちですが、田植え作業の記録係としても活用してほしいと思ってます。「いつ、どの田んぼを、この施肥量で」といった記録に加え、「土壌条件は枕地が深くなっていた」といったこれまでにない記録もできてしまいます。規模拡大に伴い、圃場の枚数が増えている方に特におすすめです。

また、この機械は使っているとどんどん欲が出てきます。「倒伏は軽くなったけど、もっと収量がほしい」といった具合に、収量をとりつつ倒伏させないギリギリをねらいたくなります。次年度の施肥設定を見直し、最適設定に毎年近づけていく。可変施肥だからこそねらえる境地ですね。


※この記事の内容は2018年に取材したものとなります。

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