井関農機株式会社

スマート農業

【事例】可変施肥の魅力とは?生産者の生の声をご紹介

「どうしようかな」と迷ったときに施肥量を適正に調整できるのが魅力です

有限会社 耕谷アグリサービス

宮城県名取市

代表取締役佐藤 克行さん

経営面積:水稲105ha 大豆40ha 麦28ha

<平成29年度実施内容>実施面積:15ha程度

震災復興支援の一環で農林水産省が実施した「食料生産地域再生のための先端技術展開事業」の土地利用型営農技術の実証研究として、平成24年から毎年3haで可変施肥田植機を使用してきました。マップを見ると、予想していたよりも田んぼの状態が複雑で驚きました。

自社でも活用してみたいと思い、可変施肥田植機を購入したのは平成29年春です。施肥量の設定などの操作がやりやすかったので、試験が終わったら購入することは決めていました。

元肥は基本的にブロードキャスタで全層施肥していますが、今年は主に大豆あとや基盤整備から戻ってきた海に近い田んぼで可変施肥を使用しました。前作が何かわからない田んぼや均平をとるのに引っ張りすぎて地力のムラがさらにわからなくなった圃場もあるので、そういう場所でもタブレットを見ながら施肥量を調整しています。

元肥の量を間違えると後々に影響してくるので、そこで間違いがないようにすることが重要です。癖のある田んぼや新規に依頼された田んぼで「どうしようかな」と迷ったときに可変施肥で施肥量を適正に調整できるのが一番の魅力だと思います。

とくにもち米は「耕谷もち」のブランドで県外の老舗餅屋さんとも取引しています。倒伏による品質低下は避けたいので、可変施肥田植機で適正量の施肥ができるようになればいいなと期待しています。

可変施肥の他にノーマルの田植機が2台あって使い分けています。可変施肥機能を使わず、ノーマルに田植えをしながらデータを取った圃場もあります。実質今年がスタートですが、それでもかなりの量のデータがとれました。これをどのように活用していくかが今後の課題です。

収量が穫れて倒れないギリギリの設定値を見つけたいですね

有限会社ごんべい

福島県大沼郡会津美里町

常務取締役 販売営業部門長
大竹 有羽ゆうさん

経営面積:水稲66ha

<平成29年度実施内容>

実施面積:59ha(移植50ha 直播9ha)

平成27年に、試作機の実証圃をお貸しした際、畦際で作業を見ていて「肥料をかなり削減できそうだな」「倒伏が少なくなるんじゃないかな」という印象をもちました。

ちょうど田植機が買い換えの時期に来ていたので、うちでも可変施肥田植機を導入しようということになり、平成28年に1台(移植専用機)、29年に2台目(多目的田植機)を購入しました。これに標準仕様機を加えて3台体制で作業しています。

従来、肥料に関しては「この辺の田んぼは10aあたり何キロ」といった感じでやっていたのですが、田んぼごとに肥沃度が違うので、入れ過ぎていたり足りない田んぼがありました。田んぼの状態に合わせて施肥量を調整できれば、ある程度均質な生育ができると思います。

とくに直播では、大きい田んぼになると内側の生育が悪く穫れない傾向があります。可変施肥を使った今年は昨年より収量は上がりました。田んぼの中の肥料ムラが小さくなった効果かもしれません。

コシヒカリやもち米はなびかないと穫れません。収量が穫れて倒れないのが理想です。圃場データから田んぼの状況の詳細がわかれば、ギリギリの設定値が見つけられるのではないかと期待しています。

可変施肥2台体制になって、肥料は従来より10%前後減りました。標準仕様機よりも値段は高いですが、何年か使えばコストの削減分で充分に元が取れて、経営のプラスになると思います。

圃場データは施肥量の管理などで活用していきたいですね。平成30年3月までにGAPをとろうとしているので、圃場ごとの作業管理記録にも利用できて便利です。

この土地で長年米づくりをしてきた社長や先輩方の勘や土地に関する情報は貴重な経営資源です。それらの一つ一つをデータとして残すことで、私たちの世代が確実に引き継いでいけるものにしたいと思っています。

常務取締役 大竹 有羽さん(左) チーフメカニック兼webプログラマー 一之瀬 善充さん(右)

可変施肥で地力のバラツキを抑え直播の倒伏を軽減することができました

福島県会津農林事務所
会津坂下農業普及所 経営支援課

福島県河沼郡会津坂下町

副主査横山 健さん

<平成29年度実施内容>

実施面積:可変施肥直播32ha(実証試験)

私が担当している会津美里町寺崎集落では、直播栽培における倒伏と雑草が課題となっていました。収量もかなり低く、本格的な導入は困難な状況でした。

平成27年、雑草については新規薬剤による除草体系を確立したことで、対策の目途が立ちました。倒伏についても、ISEKIさんの可変施肥仕様の多目的田植機で対応できそうなので、この二つの新しい技術を合わせて福島県に事業申請し、平成28年から実証試験がスタートしました。

初年度は30a圃場2枚の実証圃を含め12haで直播栽培を実施しました。雑草と倒伏はしっかりと抑えることができ、収量も地域の平均以上を確保できました。なお、このとき導入された可変施肥直播機は全国第1号機です。

2年目は、可変施肥による直播栽培を32haまで拡大しました。「導入が困難」と見なされていた寺崎集落において直播栽培を導入することができて生産者の皆さんからは「春作業が楽になった」「倒伏や雑草の悩みが解消されて良かった」「収量もしっかり確保できている」といった声をいただいています。

可変施肥直播機の魅力は圃場を走りながらリアルタイムで地力を測れるところです。 圃場データを見ると、地力のバラツキが大きく、それが倒伏の原因になっていたようです。実証試験の結果、倒伏は収穫作業に影響が少ない程度に抑えることができました。

圃場の状態にバラツキがあるので圃場ごとに減肥率を計算して施肥量を設定できれば理想なのですが、集落全体でそれをやるのは難しい。生産者の方にわかりやすいように3つくらいのメニューから設定値を選べるようにして、圃場ごとの地力に合わせて使い分けられるようにできないかなと考えています。

寺崎集落の事例が良かったので、他の地区でも導入したいという声があります。基盤整備をやっているところでは盛土・切土があるので、そういう所で導入できれば効果がありそうです。

今回の事業は平成31年度までで、最終的に直播の面積を60haまで拡大する計画です。

一定の収量を確保しながら人材を育てていくうえで最適な先端技術です

株式会社 千手

新潟県十日町市中屋敷

代表取締役櫃間ひつま 英樹さん

経営面積:水稲90ha そば20ha
     受託作業120ha
     かぼちゃ 秋野菜
     トマト イチゴ

<平成29年度実施内容>実施面積:未集計

日本では水稲は一年一作しかできません。私自身、脱サラ就農して22年目ですが、“22回しか”稲作を経験していないということです。だから、技術の伝承が非常に難しい。教わる側も、わからないことがわからない。何を聞いたらいいかわからない。

ここに来て耕作面積が急速に増えていて、作業の均質化が課題となっていますが、スタッフのレベルが追いついていません。それでも一定の収量を確保しながら技術を伝承し、人材を育てていかなければならない。作業・管理する人間のスキルが向上するまでのつなぎとして、可変施肥田植機は最適な先端技術だと期待しています。

可変施肥田植機の導入は平成28年です。実際に使ってみると、セッティングと肥料が決まっていれば、間違いは起きにくい。経験の浅い人でも作業に支障がない機械だということが実感できました。

2年目の昨年は、天候の悪さがかえって良い経験になりました。天候の悪い年ほど作業・管理する個人の力量が収量に影響しますが、可変施肥で植えた田んぼは生育・収量とも概ね平らにできていました。農業は気象変動の影響が大きいですが、天気のせいにばかりにしていてはダメです。そこでバラツキをどうやって抑えるかが問われます。これからは可変施肥のような技術が重要になってくるのだと思います。

施肥設定は概ね地域慣行を一律のベースとして、減肥率は出荷状態の標準設定で作業しました。何年か使用して圃場データが蓄積されてくれば、一枚一枚の田んぼの状態に合わせて設定ベースを高くしたり、減肥率を変えたり、分施で調整したりといった対応ができるようになり、全体として均質化に近づけることができるのではないかと思います。

また、収量コンバインのデータやドローンの空撮画像(生育調査)などと重ねれば、より踏み込んだ活用が可能になりそうです。

田んぼによって違いはありますが、トータルすると肥料は余りました。肥料を減らすことができて、倒伏を軽減できて、平らにできる。総合的に低コスト化につながっていると評価しています。

毎年同じ場所が倒伏していましたが今年の倒伏はないに等しかったです

株式会社 林営農センター

三重県津市

代表取締役林 秀和さん

経営面積:水稲80ha(主食用60ha 飼料用・加工用20ha)
小麦35ha 大豆30ha
キャベツ70a

<平成29年度実施内容>実施面積:80ha程度

ヰセキさんからのご依頼で、平成26、27年の2年間、試作機を使って可変施肥田植機の実証試験に協力させてもらいました。試験を通して、無駄な施肥量を抑えられる、一枚一枚の圃場の生育を均一にできる、そうすると倒伏も少なくなるという印象をもちました。

うちの田んぼはそういうことを期待したくなる田んぼがほとんどです。一枚の圃場の中で肥沃度にバラツキがあったり、必ず部分的に倒れる田んぼや合筆圃場、麦あとや大豆あとの田んぼもあります。試験の結果が良ければ自社でもすぐに導入したいなと思っていました。

平成28、29年に1台ずつ購入して、2台体制で全面積を可変施肥で作業しています。

肥料代は2割減になりました。肥沃度のバラツキに関しては、生育ムラがなかったので一定の効果はあったと思います。

倒伏に関しては、今年はないに等しかったですね。倒れるのは毎年同じ場所なんですが、そこが今年は倒れていません。

概ね成功と言えるのではないでしょうか。導入して良かったと思います。

可変施肥田植機で気に入っているのは、ダイヤルを回して施肥量を調整しなくて済むところです。可変施肥を導入する前は、この田んぼは何キロ、この田んぼは何キロとオペレータに口頭で指示していましたが、今はタブレットでぱっぱっと設定して終わり。作業の証拠が残るので管理面でも役立っています。

圃場データでよく見るのは深さと肥沃度です。翌年、圃場の準備段階から参考にして作業しています。

品種や植付け株数、収量などに応じて細かく減肥の設定値を見極めたいですね

有限会社ケイファーム

滋賀県野洲市

取締役小森 秀人さん

経営面積:水稲30ha 小麦20ha 大豆20ha

<平成29年度実施内容>実施面積:30ha

可変施肥田植機は平成28年春に導入しました。ちょうど田植機を購入するタイミングで、いろいろな機能の面でISEKIにすることは決めていましたが、可変施肥を買うと決めていたわけではありません。展示会で見せてもらったり、説明を聞いたりしてもあまりピンときていなかったんです。

まだ使いこなせていないICT農業の入り口として、そのきっかけづくりにちょうど良いかなというのが購入の動機です。正直なところ標準機との差額分の値打ちがあるかどうかは、その時点ではわかりませんでした。

丸2年使いましたが、まだ様子を見ながら減肥率を決めている状態です。

減肥率は10%、20%、30%の3段階あって、1年目は20~30%のところは「あぁなるほど!いつもようこけとったから思いっきり減らしとるのやな」と思いながら乗っていましたが、全体に減らしすぎて収量が穫れませんでした。

その反省から2年目の今年は減肥率を少なくしました。例えば元肥一発で50kg/10aと設定すると、30aで150kgのところが130~140kgくらいになります。1年目は120kgくらいだったので減らしすぎだったようです。それでも2年目は従来比で10%くらいの肥料を削減できました。

水稲は需要に応じて10品種をつくっています。有機肥料を使っているものや無農薬のものも合わせると13通りくらいのつくり方があります。来年は、今年の収量に加えて、品種や植付け株数など条件に応じて細かく減肥の設定値を見極めたいと思っています。

倒伏の対策としては効果がありました。どんな品種をつくっても毎年必ず倒伏する場所がありますが、可変施肥を使った効果はバッチリでした。出穂前の葉色ムラもまったく見られなくなっていました。あれは綺麗な光景ですね。

圃場データはまだ活用できていませんが、これから出てくる合筆の圃場で活かしていきたい。また、作土深のデータを見ながら冬の間に圃場の手入れをしたいと思います。

今まで感覚的にやっていたところを
圃場データで視覚的な根拠をもって説明できます

JA全農ひろしま

広島県東広島市

米穀部 米穀総合課田川 雄大さん

<平成29年度実施内容>実施面積:61.1a(3JA実証試験合計)

広島県は酒造メーカーさんが49社あり酒米の需要が多くあります。JAグループ広島では主に4つのJAでそれぞれの地域に適した酒米を生産し、各産地では生産部会を組織し、数量・品質において酒造メーカーさんのご要望に応えてまいりました。

酒造メーカーさんは、地域が違っても同じ品種であれば同じレベルの品質を求めています。品質を揃えて高位安定させるにはJAが個別に独自の対策を講じるだけではなく、全産地足並みを揃えて新たな取り組みを実践する必要があると考え、その一環として平成29年度から可変施肥田植機の実証試験を行っています。

酒米は一般的に、タンパク値が高いと、お酒にしたときに雑味の原因となるので酒造メーカーさんに好まれません。JAではこれまでタンパク値を低く抑える営農指導を行ってきていますが、可変施肥田植機で圃場の施肥ムラが小さくなることが品質向上につながるのではという期待もあります。

田植えが終わった時点で圃場データを見ることができるところは、今回試験にご協力いただいた生産者の方から高い評価をいただいています。

可変施肥田植え機を使うことで、減肥による生産コストの低減や、倒伏軽減により収量・品質が安定することも生産者の方にとって大きなメリットになります。また、今まで感覚的にやっていたところを視覚的に説明できるので、産地の情報を販売先につなぐ際にも活用できそうです。

まだ先の話になりますが、県全体の品質の高位安定が期待できる根拠として、圃場データや収量、タンパク値などのデータを基に、広島の酒米はどこをとっても良いから中長期的に使いたいという需要につながると良いですね。

初年度の取り組みとしては小規模でサンプル数が少なく、この技術を大々的に広げていく根拠にはなりません。来年度は少なくとも各地域で3名、50aずつくらいに広げて試験を継続し、より深いデータ取りができるように取り組んでいきます。

それと並行して、ご興味をもたれている生産者の方に可変施肥田植機をどのようにしてご購入いただくのか、あるいは共同利用などの提案を関係機関やJAと協議を進めたいと思っています。


※この記事の内容は2018年に取材したものとなります。

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