宮崎市内から南へ、車で約1時間半。“南国”宮崎にあって、さらにその最南端に位置する串間市の春はどこよりも早い。3月16日、朝から雲一つない青空が広がり、日中の気温は19度。ちらほらと桜の開花が始まっている。車が串間市内に入ると、周囲の田んぼの8割ほどに水が張られている。さらに南下すると、もう既に早期コシヒカリの移植が始まっていた。 すぐ目の前に太平洋の大海原が広がる圃場で、今まさに37株植/坪の真っ最中なのが牧野秀年さんだ。牧野さんの疎植栽培は今年が5年目。ヰセキ九州串間営業所の中嶋所長から勧められたのがきっかけだった。「それまで疎植栽培という認識はまったくありませんでした。このあたりでは60〜70株植が一般的で、自分もそれが当たり前だと思ってました。だから、所長の話を聞いて納得したところもあるし、半信半疑のところもありましたね」。 初年度は「とりあえず1枚だけやってみよう」と42株植で30a。収量は60株植とほぼ同等だった。牧野さんの頭から「半信半疑」の思いは消し飛び、翌年には37株植に挑戦することを決断した。
牧野さんは5年前に専業に転じて以来、毎年1ha単位で経営面積を増やしている。 「これからも一人でやれる範囲で面積を増やしていきたいと思っています」。 こうした拡大路線を推し進めていくには、疎植による労働負荷軽減と低コスト化が絶対条件となる。牧野さんは面積の拡大と歩調を合わせるように、疎植栽培の面積も一昨年1ha(37株植)、昨年2ha(37株植)と増やしていった。そして今年は37株植が4.2ha、42株植が1.2ha。実に経営面積の9割以上が疎植になった。 「苗箱が少なく済んで、収量も慣行と同等に穫れるのが疎植栽培のいいところです。育苗〜田植えのコスト削減効果も大きいですね。疎植にしていなければ、今の面積では育苗ハウスも足りなくなっているところでした」。苗箱は60株植で23箱/10a、37株植で10〜11枚/10a。田植機への苗補給の回数が少なくて済むから、補助者の労働負荷が大幅に軽減される。 自前で育苗している牧野さんにとって、そのコスト削減効果も大きい。1枚650円とすると、60株植と疎植とでは苗だけでも10a当たり6千〜7千円前後の違いが出る計算だ。
「母は今でも疎植には半信半疑ですけど、育苗と田植えの補助が楽だから、何も言いません(笑)」。 集落の中で疎植栽培を初めて手がけたのは、水稲農家としてはいちばん若い牧野さんだった。近所の人は誰も口には出さないが、「大丈夫かいな?」と興味津々に見守った。昨年、収穫の様子を見に来た年輩の隣人から「42株植で植えてほしい」と頼まれた。その人は今年、37株植にするそうだ。 60〜70株植が一般的だったこの地域でも、最近は50株植が主流となっている。「栽植密度と収量は関係ない」ことを自ら実証した牧野さんの影響は小さくない。地区平均の収量は570〜580kg/10a。昨年の牧野さんは37株植で630kgだった。「昨年は肥料を多く入れてたくさん穫れましたが、今年は抑え気味にやろうかなと思っています。疎植で儲かったお金でコンバイン(HF452)を新調しました…。あはは、さすがにそれは言い過ぎですね」。 早期コシヒカリの収穫は7月10日頃から始まる。